「らしさ」とは何か?|働き方と価値観の接点を見つける視点

らしく働く

「自分らしく働きたい」という思いは、多くの人が一度は抱くものかもしれません。

ただ、“自分らしさ”とは何かと問われると、うまく言葉にできず、思考が止まってしまうことがあります。
らしさは、他人との比較や明確な定義では捉えにくく、その輪郭は曖昧なまま心の奥にとどまり続けることが少なくありません。

それでも、この“らしさ”という感覚が働き方に影響を与えていることは確かです。
たとえば、仕事への意欲が湧かなかったり、成果が出ていても気持ちが満たされなかったりする場合、その背景には「らしさ」と働き方の間にある、目に見えにくいズレが存在している可能性があります。

本記事では、自分らしく働くための出発点として、「らしさ」とは何かをあらためて見つめ直し、その感覚が働き方にどのような影響を与えるのかを整理していきます。

なぜ「自分らしく働きたい」と思うのか

ふと湧き上がる違和感に、立ち止まる瞬間がある。
明確な不満ではないけれど、「このままでいいのだろうか」と問いかけたくなる。

「自分らしく働きたい」という思いは、ある日突然生まれるものではありません。
その背後には、働く中でふと湧き上がる違和感や、言葉にしきれない葛藤が積み重なっています。
それは、目に見える問題よりも、むしろ“ズレ”のようなものとして現れることが多く、明確な不満とは違うために見過ごされやすいものでもあります。

ここではまず、「自分らしさ」という感覚を意識し始めるきっかけを見ていきます。

満たされなさの正体は、“ズレ”として現れる

働き方に対する違和感は、必ずしも明確な不満という形で現れるわけではありません。
仕事そのものに大きな問題があるわけでも、職場環境が悪いわけでもない。
それでも、どこか心がついてこない──。そんな感覚に心当たりがある人もいるかもしれません。

評価されているのに喜べない。
日々こなせてはいるのに、どこか空虚に感じる。
その背景には、「本来の自分」と「求められる役割」との間に生じた微細なズレが潜んでいる可能性があります。

このズレは、必ずしも周囲からは見えません。
むしろ順調に見えるキャリアほど、自分自身の中で「何かが違う」という小さなサインは、後回しにされがちです。

しかし、その違和感を丁寧に見つめていくと、自分の中にある“らしさ”の輪郭が少しずつ浮かび上がってくることがあります。

選べる時代だからこそ、自分に問われるものがある

現代の働き方は、多様で柔軟になったと言われています。
正社員だけでなく、フリーランス、副業、リモートワーク、週3勤務など、選択肢は確かに増えました。

けれど、それは単純に「自由になった」という話ではありません。
何を選ぶか、その選択の責任を個人が引き受ける時代になったということでもあります。

かつては、正解に見えるルートを辿ればある程度の安定が得られました。
今は「自分にとっての納得とは何か」が、働き方を選ぶ際の基準として強く問われるようになっています。

「安定か挑戦か」「やりがいか収入か」「肩書きか居心地か」──
その問いの一つひとつに向き合う中で、自分らしさという軸を持っていなければ、どの選択にも確信が持てず、立ち止まり続けることになってしまうかもしれません。

「らしさ」はどこにあるのか

自分らしい働き方を求めるとき、多くの人がまず向き合うのが、「そもそも“自分らしさ”とは何か」という問いです。
しかし、この問いは一見シンプルに思えても、実際に向き合うと答えにくいもので、考えを巡らせてもなかなか言葉にできないと感じることがあります。

それもそのはずで、らしさとはもともと明確な定義を持たないうえに、ひとつの正解があるものでもありません。
ここではまず、「らしさ」が見つからない理由と、それでも探る意味について、丁寧にひもといていきます。

「らしさ」は本質ではなく、選び取るものかもしれない

“らしさ”という言葉には、「もともと備わっている自分の本質」のような印象があります。
けれど、実際のところ、らしさは生まれつき決まっているものではなく、日々の選択や経験のなかで少しずつ育っていくものではないでしょうか。

ある時期には心地よく感じた仕事が、数年後には違和感に変わっていることもある。
逆に、かつては苦手だった役割に、今はやりがいや意義を見出せていることもある。
そうした変化は、「自分という存在」そのものが揺らぎながら更新され続けていることを示しています。

らしさとは、固定された本質ではなく、「何を大切にしたいか」を繰り返し問い直すなかで、自ら選び取っていくもの。
だからこそ、それを掴もうとする行為そのものが、自分らしい働き方をつくる第一歩になるのだと思います。

感情のゆらぎが、“らしさ”の在りかを示している

自分らしさを言語化しようとするとき、手がかりになるのは意外にも、論理ではなく感情です。
とくに、違和感や納得感といった“揺れ”にこそ、らしさの核心がにじみ出ることがあります。

たとえば、ある役割に対して不思議と意欲が湧いた場面や、ある働き方に対して説明のつかない抵抗感を覚えた経験。
そういった感覚のひとつひとつを丁寧にすくい上げていくと、自分にとって譲れない価値や、逆にあまり重要ではない要素が少しずつ見えてきます。

他人の期待ではなく、自分の中から沸き上がる反応に耳を傾けること。
正しさではなく、納得を軸にして過去を見つめ直すこと。
それらの積み重ねが、目には見えにくい“らしさ”のかたちを、少しずつ輪郭づけていきます。

こうして少しずつ「自分にとってのらしさ」が見えてくると、それまでとは働き方の捉え方が変わってくることがあります。
選ぶ基準や迷い方が変わったり、これまで気にしていなかったことが大切に思えたり——。
次に見ていくのは、そうした“らしさ”の感覚が、働き方にどのような影響をもたらすのかという視点です。

「らしさ」が働き方に与える影響

自分の中にある「らしさ」に少しずつ気づきはじめると、働き方に対する捉え方も変わっていきます。
何を選ぶか、どう判断するか。その背後にある基準や意味づけに、じわりと影響を与えはじめるのが“らしさ”という感覚です。

ここでは、その内面的な変化が働き方にどのようなかたちで現れてくるのかを整理していきます。

判断基準が「外」から「内」へ切り替わる

“らしさ”を見つめる過程で起きる最も本質的な変化は、判断の起点が「他人からの評価」ではなく「自分の納得」に置き換わることです。

たとえば、「条件がいいから」「人から評価されるから」といった基準で選んできた道が、いつの間にか「自分は何を優先したいのか」「この選択に納得できるのか」といった問いに置き換わっていきます。

この転換は、選択の正解・不正解を判断する基準そのものが変わるということです。
同じ職場で働き続ける選択であっても、それが“誰かにどう見られるか”ではなく、“自分が何に価値を感じているか”を軸にしたものであれば、迷い方や踏ん張り方が変わってきます。

重要なのは、判断の根拠が他人ではなく、自分の内側にあるという感覚を持てること。
その感覚は、どの働き方を選んでも、自分の意思で進んでいるという静かな確信につながっていきます。

同じ選択でも「意味づけ」が変わる

“らしさ”という軸を持っているかどうかは、選択の質だけでなく、選んだ後の意味づけや関わり方にも影響します

たとえば、副業を始めるという行動一つをとっても、「現状に不満があるから何かを変えたい」という動機と、「自分の価値を別の形でも活かしてみたい」という動機とでは、取り組み方も、そこから得られる実感も大きく異なります。

らしさとつながった選択には、どんな小さな行動にも納得感が宿ります。
たとえすぐに成果が出なくても、「自分の選択だった」という感覚が残ることで、立て直すための軸がぶれません。
逆に、他人の期待や不安から選んだ選択肢は、たとえ成果が出ても、どこか空虚さや違和感が拭えないこともあります。

結局のところ、「何をするか」ではなく、「どう向き合っているか」に“らしさ”は表れます。
そして、その向き合い方の深度が、働き方そのものの質を大きく左右していくのです。

まず、“らしさ”を言葉にしてみる

働き方における“らしさ”は、なんとなく感じていても、いざ言葉にしようとすると戸惑うことが多いものです。
それは、経験や感情がいくつも重なり合っていて、うまく整理しきれないからかもしれません。

それでも、「自分にとって、どんな働き方がしっくりくるのか」を考えるなら、言葉にしておくことは大きな意味を持ちます。
言葉として表せるようになると、日々の選択や迷いに対して、自分なりの判断軸が持てるようになっていきます。

言葉にすることで、感覚が確かになる

自分らしさを言葉にすることは、「こういう自分でありたい」と表明するだけのものではありません。
「どんなときにしっくりくるか」「どういうときに違和感があるか」といった感覚を、少しだけ外に出して見えるようにする行為です。

頭の中にあるうちは、何が大事なのかがぼやけてしまいがちです。
けれど、いったん言葉にしてみることで、自分が何に反応しているのかが見えやすくなります。

言葉にしたことで気づくこともあれば、言葉にして初めて「これは違ったかもしれない」と思うこともある。
そのプロセスこそが、自分らしさを探るうえでの手がかりになります。

うまく言えなくても、まずは今の気持ちを言葉にしてみる。

選択に迷ったとき、立ち戻れる場所になる

どんな働き方をしていても、判断に迷う瞬間は必ず訪れます。
そんなとき、「何を大切にしたいと思っていたか」が自分の中に残っていると、進む方向を見つけやすくなります。

言葉として持っておくと、たとえ忘れかけても思い出しやすくなります。
過去の選択の理由や、自分が感じた納得感を取り戻せるだけでも、迷ったときの立て直しに役立ちます。

今の気持ちを言葉にしておくことは、未来の自分にとっての“道しるべ”になるのです。

完璧な定義よりも、今しっくりくる感覚を

“らしさ”を言葉にすると聞くと、はっきりとした定義を作らなければならないように感じるかもしれません。
けれど、ここで求められているのは、正解のような一文ではありません。

「今はこう感じている」「今の自分にとっては、これがしっくりくる」
そんな感覚を仮の言葉として持っておくことが、働き方を選ぶうえでの足場になります。

言葉は変わっていくものです。だからこそ、今の感覚に正直に向き合いながら、少しずつ調整していくことが、自分らしく働き続けるうえでの土台になっていきます。

言葉にしてみたことで、少しだけ輪郭が見えてくる。

まとめ|“らしく働く”の出発点に立つために

「自分らしく働きたい」という言葉は、ときに理想論のように扱われたり、感覚的で曖昧なものだと片づけられたりすることがあります。
けれど実際には、その“らしさ”を丁寧に見つめていくことは、働き方に対する納得感や持続性を支える、静かで確かな軸になります。

らしさは、最初から明確なかたちで存在しているわけではありません。
違和感や納得感といった感情のゆらぎの中から、少しずつその輪郭が見えてくるものです。
そして、それを自分なりの言葉にしておくことで、働き方の選択や意味づけにも変化が生まれていきます。

大切なのは、すぐに答えを出すことでも、完璧に定義することでもありません。
今の自分にとって何がしっくりくるのかを考えながら、働き方との関係を少しずつ調整していくこと。
そのプロセスこそが、「らしく働く」ことの出発点になるのだと思います。

なお、自分の価値観の傾向をもう少し整理したいと感じた場合は、8つのタイプで“働く軸”を分類するキャリアアンカー理論も参考になります。
働き方における内面的な優先順位を見つける視点として、以下の記事で詳しく紹介しています。

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キャリアアンカーとは何か?8つのタイプで“働く軸”を見つける考え方

著者プロフィール

シミズヒサノリ|Trigger Log運営メンバー
広告会社でマネジメント業務に従事している40代。
30代前半のころから副業を始め、ブログ運用、広告運用、業務委託など複数の副業を経験。
現在の副業歴は約10年。
Web制作会社での勤務経験もあり、UX(ユーザー体験)を意識した情報設計・コンテンツ発信に取り組んでいる。

自分の経験が、誰かの「最初の一歩」の後押しになればうれしいです。