キャリア・アンカーとは?自分の軸(碇)を見つけるための8つのタイプ

働き方の設計図

「このままでいいのだろうか」
ふとした瞬間にそう感じることが、年齢を重ねるごとに増えてきた——。

昇進や異動、働き方の多様化。環境が変わるたびに、仕事に対する違和感やモヤモヤを抱える方は少なくありません。
やりがいが感じられない、評価されているのに納得感がない、転職を考えるほどではないけれど、このまま進んでよいのかが分からない。

そんなとき、キャリアの「選び方」ではなく、「支える軸」に目を向けてみると、状況の見え方が変わってきます。

本記事では、組織心理学者エドガー・シャインが提唱した「キャリア・アンカー理論」をベースに、キャリアの根底にある価値観とそのタイプを整理します。
これまでの経験や今後の選択に迷いがある方にとって、自分自身を見つめ直すヒントになれば幸いです。

キャリアに迷ったとき、外ではなく内に目を向ける】

ある朝、目覚ましを止めてしばらく天井を見つめる。
体は疲れていないのに、会社へ向かう気持ちがどこか重い。

職場での評価は悪くない。成果も出している。
それでも、ふとした瞬間に「この先、何を目指していけばいいのだろう」と立ち止まってしまう——。

そんな感覚を抱えたまま、目の前にある選択肢を比べてみても、なぜかどれもしっくりこない。
環境を変えるべきか、それとも今の場所で続けるべきか。候補はあっても、決め手が見つからない。

もしかするとそれは、“どこへ行くか”よりも“自分が何を大切にしたいか”が見えていないことが原因かもしれません。

人は何かを選ぶとき、意識していなくても、**心の深いところにある“軸”**を頼りにしています。
その軸がはっきりしていれば、自分に合う・合わないの判断は自然とできる。
けれど、軸が曖昧なままでは、選択するたびに迷いがつきまといます。

そうした“軸”に気づかせてくれるのが、キャリア・アンカーという考え方です。

船がどこへ向かおうと、流されずに踏みとどまるためには、海底に沈めた“碇(いかり)”が必要です。
私たちのキャリアにも同じように、外からは見えにくいけれど、進む方向や選択を内側から支える“碇”が存在しています。
表面的なスキルや希望とは異なり、それが満たされない限り、どんな働き方も、どこか「満たされない」感覚が残ってしまう——そんな、意思決定の根本に深く作用する存在です。

では、その“碇”とは一体どのようなものなのか。
あらためて、「キャリア・アンカー」という考え方の根底にある価値観について、少し深く掘り下げてみます。

キャリア・アンカーとは何か?

キャリア・アンカーという言葉に触れたとき、
それが特別なスキルや肩書きのようなものだと感じる方もいるかもしれません。
けれど、その本質はもっと静かで、内側に沈んでいるものです。

ここでは、アンカーという概念が何を意味し、なぜキャリアの選択において重要なのかを整理していきます。

満たされない感覚の正体

目の前の仕事に違和感を覚えたとき、
その理由を「忙しさ」や「人間関係」として片づけてしまうのは簡単です。

けれど、本当の原因はもっと奥にあるのかもしれません。
努力が報われていないわけでも、環境が悪いわけでもない。
それでも満たされない感覚が残るとしたら——
それは、自分の内側にある「何か」が無視されているからかもしれません。

譲れないものは、人によって異なる

キャリア・アンカーとは、
自分自身がキャリアの選択を行うときに「これだけは譲れない」と感じる、深い価値観の拠りどころのことです。

表面的なスキルや希望とは違います。
年収が上がっても、職場の条件が整っていても、
その価値観が損なわれていれば、どこかで違和感が生まれる。

そしてその「譲れないもの」は、人によって異なります。
専門性に重きを置く人もいれば、自由な働き方を何よりも大切にする人もいる。
組織の中で信頼を築くことに喜びを感じる人もいれば、成果で認められることに意味を見出す人もいます。

キャリア・アンカーは、そうした内なる重心の位置を静かに示してくれる存在です。

見えにくくても、確かにそこにある

キャリアの選択に迷いが生まれるとき、
私たちはしばしば「何を選ぶか」「どこに行くか」に意識を向けます。
けれど本当は、“どこへ向かうか”よりも、“何を支えにして立っているのか”が見えにくくなっているだけかもしれません。

キャリア・アンカーとは、そうした「支え」のようなものです。
言葉にしづらく、外からは見えにくいけれど、
確かに私たちの判断や行動の底で作用している——そんな、内なる“碇”です。


では、その“碇”にはどのような種類があるのか。
次のセクションでは、シャインが整理した8つのアンカータイプをもとに、
それぞれが持つ価値観の特徴を見ていきます。

キャリア・アンカーの8つのタイプ

進むべき道を考えるとき、心の中の軸を知ることが大切

私たちがキャリアに迷ったとき、外からの評価や条件ではなく、自分の内側にある“譲れないもの”を見つめ直すことで、選択の基準が少しずつ見えてくる。そうした考え方の中核にあるのが、キャリア・アンカーです。

ここからは、原理論を踏まえながら、それぞれのタイプを整理していきます。

専門性を深めることに喜びを感じる

(Specialist / Technical Competence)

特定の分野における技術的・専門的な能力の向上に満足感を得るタイプです。
仕事の中で自分の専門スキルを高め、深めることに喜びを感じ、
その領域のプロフェッショナルとして成長し続けることを望みます。

具体的には、プログラミングや設計、分析、研究など、
専門性が明確で、成果が技能の向上に直結する職種や役割に魅力を感じます。

このタイプの人は、専門技術を磨くこと自体が自己実現となり、
管理職や幅広い組織運営よりも、深い専門性の追求を優先する傾向があります。

チームや組織を動かすことに使命を感じる

(General Managerial Competence:全般管理コンピタンス)

組織の中で人やプロジェクトをまとめ、方向性を示す役割にやりがいを感じるタイプです。
チームの成果に責任を持ち、メンバーの成長や組織全体の成功に喜びを見いだします。

このタイプの人は、リーダーシップを発揮しながら、
複雑な状況を整理し、調整する能力を重視します。
自分が組織の舵取りをすることで、全体の動きを最適化することに満足感を得ます。

一方で、専門技術の習得や単独での作業よりも、
多様な人々の意見をまとめることや意思決定の場面に力を発揮する傾向があります。

自分の裁量で働けることが何より大事

(Autonomy / Independence:自立・独立)

自分の判断や意思で自由に働くことを最も重視するタイプです。
他者からの干渉や指示を嫌い、自分のペースで仕事を進めることに満足感を得ます。

たとえば、フリーランスや起業家のように、責任は伴うものの自由な働き方を望む人が多く、
自律的に意思決定できる環境に強い魅力を感じます。

一方で、厳密な管理や細かなルールのある職場ではストレスを感じやすく、
自由度の低い環境に縛られることを避ける傾向があります。

安心できる環境で力を発揮したい

(Security / Stability:保障・安定)

安定した職場環境や収入、将来の保証があることを重要視するタイプです。
予測可能な生活や安心感があってこそ、仕事に集中できると考えます。

たとえば、公務員や大手企業の社員など、長期雇用や福利厚生の充実した職場を好み、
リスクを避け、確実性の高いキャリアパスを望む傾向があります。

このタイプは、急激な変化や不安定な状況に不安を抱きやすく、
安定を損なう環境ではパフォーマンスを発揮しづらいこともあります。

新しいものを生み出す過程に惹かれる

(Entrepreneurial Creativity:起業家的創造性)

未知の課題に挑戦し、新しい価値やビジネスを創造することに強い意欲を感じるタイプです。
アイデアを形にし、自分の手で変革を起こすプロセス自体が大きな満足となります。

たとえば、新規事業の立ち上げやベンチャー企業の経営、独自のサービス開発に関わる仕事に魅力を感じ、
リスクをとってでも自らの創造性を試したいという気持ちが強い傾向があります。

反面、安定した環境やルーティンワークには興味が薄く、
変化や不確実性を楽しめるかどうかがパフォーマンスに直結する場合もあります。

誰かの役に立つ実感が支えになる

(Service / Dedication to a Cause:奉仕・社会貢献)

自分の仕事が社会や誰かの役に立っているという実感が、働く原動力になるタイプです。
目に見える成果以上に、貢献感や使命感が重視されます。

たとえば、医療・福祉、教育、NPO活動など、人のためになる仕事に強く惹かれ、
社会的な価値を生み出すことに誇りと満足を感じます。

このタイプは、利益追求や個人の成功よりも、
共感やつながりを大切にし、自己犠牲も厭わない献身的な姿勢が特徴的です。

困難に向き合うこと自体が原動力になる

(Pure Challenge:純粋な挑戦)

未知の課題や難題に立ち向かい、乗り越えること自体を大きなやりがいと感じるタイプです。
勝敗や結果以上に、「挑戦する過程」での緊張感や達成感を重視します。

たとえば、困難なプロジェクトやスポーツ、技術革新の最前線など、
高いハードルを自ら設定し、そこに挑戦し続ける姿勢が特徴です。

このタイプは、安定やルーティンを好む環境では満足感を得にくく、
常に新しい挑戦や変化を求める傾向があります。

働き方と生き方を両立できることが大切

(Lifestyle:ライフスタイル)

仕事とプライベートのバランスを重視し、生活の質を損なわずに働くことに価値を置くタイプです。
キャリアの成功よりも、心身の健康や家族との時間を優先します。

たとえば、柔軟な勤務時間や在宅勤務を活用し、趣味や育児との両立を図ることに満足感を得る人が多いです。

このタイプは、過度な残業やストレスの多い環境に耐えられず、
働き方改革やワークライフバランスの実現を強く望む傾向があります。


8つのキャリア・アンカーは、決して単独で存在するものではありません。
人それぞれに複数の要素が絡み合い、重なり合うことで、独自の「碇」となっています。

この多様な側面を理解することが、
自分自身のキャリアの根本を見つめる大切な視点となり、
迷いを解消し、納得できる選択へとつながります。

自分のアンカーに向き合う意味

自分のキャリアの根底にある価値観、つまりキャリア・アンカーに向き合うことは、
今感じている違和感や迷いの正体を理解するための大切な一歩となります。

多くの場合、仕事や環境の変化による問題と思いがちですが、
実は自分の中にある「譲れない価値観」が満たされていないことが原因である場合が少なくありません。

この価値観をしっかり理解することで、選択の基準がはっきりと見えてきます。
そうすることで、単に流されるのではなく、自分らしい働き方や生き方を見つけることができるでしょう。

また、キャリアの迷いや違和感は、決して悪いものではなく、
自分のアンカーを知るためのサインとも言えます。
そのサインを見逃さずに向き合うことで、長期的に納得感のあるキャリアを築けるはずです。

まとめ|自分の「碇」を知ることからはじめよう

キャリアに迷いを感じるとき、外側の条件や環境の変化だけに目を向けがちです。
しかし本当に大切なのは、自分の内側にある「譲れない価値観」、すなわちキャリア・アンカーを理解することです。

8つのアンカータイプを知り、自分の中でどの要素が強く響くかを見つめ直すことで、
漠然とした違和感の正体や、これからの働き方のヒントが見えてきます。

この「碇」をしっかりと意識し、尊重しながら歩むことが、
長く納得感を持って働き続けるための大切な土台となるでしょう。

まずは自分の「碇」を知ることから、キャリアの新しい一歩を踏み出してみてください。

著者プロフィール

シミズヒサノリ|Trigger Log運営メンバー
広告会社でマネジメント業務に従事している40代。
30代前半のころから副業を始め、ブログ運用、広告運用、業務委託など複数の副業を経験。
現在の副業歴は約10年。
Web制作会社での勤務経験もあり、UX(ユーザー体験)を意識した情報設計・コンテンツ発信に取り組んでいる。

自分の経験が、誰かの「最初の一歩」の後押しになればうれしいです。