「たまたま」の裏側にあるもの|偶然を味方にするキャリアの考え方

働き方の設計図

ちょっとした頼まれごとが、あとから大きなきっかけになっていた。
なんとなく始めたことが、気づけば今につながっていた。

そのときは深く考えていなかったけれど、
振り返ってみると「あれが転機だったのかもしれない」と思うことがあります。

一見すると、たまたまのように見える出来事。
でも実は、その“幸運”は偶然ではなかったのかもしれません。

アメリカの心理学者ジョン・D・クランボルツは、
偶然に見えるできごとがキャリアを動かすことに注目し、
「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を提唱しました。

この考え方は、「すべてを計画どおりに進めようとしなくてもいい」という
今の時代にふさわしい柔軟なキャリアの捉え方でもあります。

この記事では、クランボルツ理論の基本と考え方を紹介しながら、
偶然をどう受け止めていくか、そのヒントを探っていきます。

計画された偶発性理論とは?

計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)は、
アメリカの心理学者ジョン・D・クランボルツが提唱したキャリア理論です。

この理論では、キャリアはすべて計画どおりに進むものではなく、
偶然の出来事や、予測できない出会いが重要な転機になると考えられています。

私たちの働き方や人生の選択には、タイミングや環境の変化、他者との関係など、
自分ではコントロールできない要素が多く関わっています。
それでも、そうした偶然をただの“運”として片づけるのではなく、
意味のあるものとして受け止めていく視点を持つことで、
その後の選択や可能性が大きく変わることがあります。

クランボルツは、「たまたま起こった出来事がキャリアを動かすのではなく、
その偶然を活かす行動をしている人こそ、キャリアを動かしている」と述べています。

この考え方は、予測が難しく、変化の早い今の時代にも通じるものです。
すべてを思い通りに設計することが難しいからこそ、
予測できないことを前提にしながら進む柔軟さが、これからのキャリアの支えになるかもしれません。


では、偶然をチャンスに変えるには、実際にどのような行動が求められるのでしょうか。

計画された偶発性理論では、偶然に出会いやすくなり、それを活かせる人には
共通する行動特性があるとされています。
次は、その具体的な5つの要素について見ていきます。

偶然を活かす5つの行動特性

計画された偶発性理論では、偶然の出来事をチャンスとして受け止め、活かしていくために意識しておきたい5つの行動特性が示されています。

これらは特別な能力ではなく、日常の中で少しずつ育てていけるものです。偶然に「出会う」だけではなく、それを受け止める力があるかどうかが、キャリアの広がりを左右する──
そんな前提に立つ考え方です。

好奇心(Curiosity)|関心を広げる

新しいことに興味を持ち、「やってみようかな」と思える姿勢。
知らない分野や未経験の領域に少しでも触れてみることで、
偶然のきっかけと出会う機会はぐっと増えていきます。

持続性(Persistence)|あきらめずに続ける

結果がすぐに出なくても、行動を続ける力。
目に見える成果がなくても、続けているからこそ得られるチャンスがあります。
小さな積み重ねが偶然を引き寄せる土台になります。

柔軟性(Flexibility)|想定外にも対応する

「こうあるべき」や「こうするしかない」といった思い込みから一度離れてみること。
予定どおりにいかないことも含めて受け入れ、
状況に応じて考え方や行動の方向を変えられることが、偶然のチャンスを取り込む余白になります。

たとえば、「本業一本に絞らなければいけない」と思っていた人が、
副業や学び直しを視野に入れた瞬間、可能性の幅が広がる──
そんな変化も柔軟性の一つです。

楽観性(Optimism)|可能性を信じる

「どうせうまくいかない」と決めつける前に、
「やってみたら、何か見つかるかもしれない」と前向きに捉えられる力。

もちろん、根拠のない楽観主義とは違います。
不確実な状況でも、可能性がある限り行動してみる価値があると信じる姿勢が、
偶然に対して心を開くことにつながります。

リスクテイク(Risk Taking)|不確実でも動く

結果が予測できない状況でも、「まず動いてみる」ことができるかどうか。
準備が整っていなくても、興味や関心に従って踏み出してみることで、
思わぬ出会いや展開にたどり着くことがあります。

失敗を恐れずに、小さなリスクをとってみること──
それ自体が偶然のきっかけを呼び込む行動になります。

無理なく取り入れていくために

これら5つの特性は、完璧である必要はありません。
「少しだけ意識してみる」「やってみようかな」と思えた瞬間から、
偶然を受け止める土台は少しずつ育っていきます。

次は、こうした行動特性が具体的にどのような場面で活かされるのかについて見ていきます。

計画された偶発性をどう活かすか

偶然を活かすための5つの行動特性は、
それ自体が目的ではなく、偶然に出会いやすくなり、それを意味あるものとして受け止めるための土台です。

では、そうした姿勢は実際のキャリアや働き方の中で、どう機能するのでしょうか。
ここでは、日常に潜む偶発性と、それをどう活かしていくかのイメージを掘り下げてみます。

想定外の依頼が、新しい道をひらく

「急ぎでこれお願いできないかな」と、
本来の担当業務とは異なる仕事を任される場面は意外と多いものです。
慣れない業務に戸惑いながらも取り組んでみた結果、
その経験が評価され、別のチャンスにつながることがあります。

このような「たまたまの依頼」も、受け入れる柔軟性と、
「どうせすぐ終わるし試しにやってみよう」という楽観性があったからこそ
形になったと言えるかもしれません。

もしそこで「自分の仕事じゃない」と断っていたら、
その後の展開はなかったかもしれません。

迷いながら踏み出した選択が、後で意味を持つ

転職、副業、資格の勉強、引っ越し──
これからの進路や働き方について考えるとき、
「この選択で正しいのか」という不安はつきものです。

それでも、持続性をもって試行錯誤を重ねていく中で、
少しずつ視界が開けてくることがあります。

たとえば副業ブログを始めた人が、数ヶ月後に本業に活かせる視点を得たり、
全く異業種の勉強が、思わぬ形で自分の軸になることもあります。

その時点では意味がわからなかった経験が、
時間をかけて「そうか、あれが転機だったのかもしれない」とつながっていく。
それもまた偶発性の力です。

小さな行動が、大きなつながりに育つ

「気になっていたサービスに資料請求してみた」
「なんとなく登録していたメルマガで紹介されたイベントに参加した」
「日報の一言コメントを丁寧に書いた」

こうした小さな行動が、意外なきっかけになることがあります。
最初から大きな変化を求めるのではなく、
好奇心リスクテイクを持って、「やってみる」「動いてみる」という積み重ねが
偶然との接点を生み出していきます。

チャンスは、自ら探しに行くこともあれば、
動いているからこそ向こうからやってくることもあります。


偶然を活かすには「余白」と「準備」がいる

どんなに多忙でも、すべてが予定通りに進んでいるようでも、
偶然を受け止めるには心と行動の“余白”が必要です。

スケジュールがぎっしりで、頭の中も「こうすべき」で埋まっていると、
せっかくの偶然が目の前にあっても、気づけないことがあります。

また、「準備」とは何も完全なスキルや知識ではなく、
いつでも動ける心の柔らかさや、興味の方向性を持っておくことでもあります。


大きな決断や劇的な転機だけでなく、
偶然を活かす選択は、もっと小さくて、静かで、日常の延長にあるものです。

次は、そうした偶然に振り回されず、意味づけながら進んでいくための視点をまとめていきます。

偶然に振り回されないために

計画された偶発性理論は、「偶然を受け入れること」を肯定的に捉えますが、
それは「成り行きまかせで生きる」という意味ではありません。

むしろこの考え方は、自分の意志を持ったうえで偶然を活かすことを前提としています。

偶然を活かすには、軸が必要

偶然に出会いやすくするには、柔軟であることが大切です。
けれど、それだけでは流されてしまうこともあります。

何に関心があるのか、何を大事にしたいのか。
そういった自分なりの軸や価値観があってこそ、
出会った偶然を「受け入れるのか、見送るのか」を選ぶ判断ができます。

すべての偶然に反応する必要はありません。
大切なのは、自分にとって意味のある偶然を選び取ることです。

意図のない偶然は、ただのノイズになることも

目の前に現れたチャンスや誘いにすべて乗っていると、
気づけば「なんとなく忙しいだけ」になってしまうことがあります。

そうならないためには、日々の中で小さくてもいいので、
「今、何に向かっているのか」を意識しておくことが必要です。

これは大げさな目標を掲げるという話ではなく、
「もう少し文章を書く力を伸ばしたい」
「週末はできるだけ子どもとの時間を大事にしたい」
──そうした小さな意図で構いません。

そうした感覚が、偶然との距離感を調整する手助けになります。

流されずに、柔らかく進む

計画された偶発性理論が伝えているのは、
「計画か、偶然か」という二択ではなく、
「計画しながら、偶然も活かす」という重なりのあるアプローチです。

未来はコントロールできない。
でも、自分の動き方や受け止め方は調整できる。
その柔らかさこそが、この理論の本質だと言えるかもしれません。

まとめ|偶然を味方にするキャリアの視点

キャリアは、思い描いた通りに進むとは限りません。
むしろ、あとから振り返って「あの出来事が転機だった」と気づくことのほうが多いかもしれません。

計画された偶発性理論は、そうした予測できない出来事を
ただの“運”として流すのではなく、意味あるチャンスとして受け止めていく視点を与えてくれます。

そのために必要なのは、特別なスキルではありません。
少しの好奇心、柔軟さ、そして「やってみようかな」と思える気持ち。
そうした姿勢の積み重ねが、偶然に気づき、活かす力を育てていきます。

もちろん、すべての偶然が意味を持つわけではありません。
でも、目の前に現れた出来事に「これがどこかにつながるかもしれない」と目を向けてみることで、
選択の幅は少しずつ広がっていきます。

まずは、日常の中で立ち止まる瞬間を持ってみる。
「これは偶然かもしれない」と思える出来事に出会ったとき、
それを受け止められるかどうかが、次の一歩につながっていくかもしれません。

すべてを決めきれなくても、大丈夫。
そんな視点を、これからのキャリアに静かに添えていけたら──
偶然は、もっと自分らしく働くことの支えになってくれるはずです。

著者プロフィール

シミズヒサノリ|Trigger Log運営メンバー
広告会社でマネジメント業務に従事している40代。
30代前半のころから副業を始め、ブログ運用、広告運用、業務委託など複数の副業を経験。
現在の副業歴は約10年。
Web制作会社での勤務経験もあり、UX(ユーザー体験)を意識した情報設計・コンテンツ発信に取り組んでいる。

自分の経験が、誰かの「最初の一歩」の後押しになればうれしいです。